消せるボールペン
コロナワクチンの予診票で、消せるボールペンで記入する人が多く、自治体や医療機関が困っているとのニュースを見ました。普通に考えれば、公的機関関係の書類に消せるボールペンで記入してよいはずがないのは明らかですが、意外とこうしたケースが多いようです。
そういえば、以前、ある申立書類に署名してもらおうとしたところ、この消せるボールペンでよいか尋ねられたことがあり、断ったことを思い出しました。その件と今回のニュースを見て、一般の方は、押印書類の意義やその書類がどのくらい保管されるのかなどは関知しないでしょうから、こうした傾向もある意味仕方ないのかもしれないと考えたりします。
私は、この消せるボールペンは持っていないのですが、消せる以上、ボールペンとして求められる効能は持っていない道具であり、根幹の機能は鉛筆と一緒です。
消せるボールペンを用いる場合というのは、想像するに、例えば、授業のノートをとる際などは効果を発揮するのかもしれません。鉛筆だと黒ずむところ、インクなのでそうした心配はありません。しかも修正できるため綺麗に記録できます。
でも、それ以外だと、使いどころがあまり思いつきません。しかし、この消せるボールペンは爆発的に売れているらしいので、皆さんどのように使用しているのか気になるところです。
ところで、このニュースを見たとき、登記手続、特に決済手続において、この消せるボールペンを使用された場合は、その場でどうやって確認すべきか気になりました。登記における押印書類は、記名押印で構わないため、必ず署名してもらう必要はありませんが、私は申請人が個人の場合は署名してもらうことがほとんどです。後日の意思確認の証明にもなるからです。
大抵は、金融機関などに備え置かれたボールペンを使用することが多いのですが、中には昨今のコロナの影響もあり、自分のボールペンを使用する方も稀にいます。これまで、まさか、消せるボールペンで記入する人がいるとは想像すらしていなかったので、全くの盲点でした。
この消せるボールペンというのは、普通に消しゴム等で消せるわけではなく、どうも専用の器具でこすり、その摩耗熱により消える仕組みのようです。決済等で確認するのであれば、その場で確認することとなるのでしょうが、署名してもらった書類をあまりゴシゴシこするのは見栄えがよくないですし、依頼者も疑われているようで気分もよくないことでしょう。
ただ、もし、消せるボールペンで記入されていると、間違いなく登記は受理されないでしょうから、もし依頼者が自分のボールペンで記入することに固執された場合は(そこにこだわる方はいないでしょうが)、消せるボールペンでないかを事前に確認し、さらにその申告の内容に関わらず、司法書士自身も念のため確認する必要があるでしょう。しかし、あまり格好がよい作業でもありませんので、なんとか説明又は説得し、金融機関備え置きのボールペンや私のボールペンを貸与し、署名してもらいたいところです。
また、相続において、遺産分割協議書にこのボールペンで署名されると大変だなとも感じます。
消せるボールペンは、修正できるという一点では、便利なペンですが、ボールペンの主要な機能である「長期間に渡り、書いた内容を保存できること」を捨ててしまっているようで、何か不思議な気がします。また、登記手続上のみならず、様々な書類手続においても、これまでの慣行を壊しかねないため、今後もしかしたら問題化するかもしれません。
いずれにしても、自分が興味ないからといって、ずっと知らなければ、実務においても困ることも生じそうですし、後学のためにも、今度文房具屋で1本購入してみようと思っています。