実質的支配者申告制度の改善
連件で同じようなタイトルの投稿をしているため分かりにくいかもしれませんが、こちらは、数年前から既に開始されている制度であって、株式会社設立時の定款認証手続に際し、交渉人に提出する「実質的支配者となるべき者の申告書」についての投稿です。
令和4年1月31日から開始される「実質的支配者情報リスト制度」については、こちらの事務所ブログをご覧ください。
実質的支配者となるべき者の申告書とは
司法書士であればご存じの制度ですが、平成30年より、定款認証の嘱託手続の際に公証役場に提出する書類が増えました。それが、この「実質的支配者となるべき者の申告書」です。
内容は、定款認証手続を依頼された司法書士が、発起人と面談等し、犯収法及びその施行規則に定義された実質的支配者を申告書に記入し、その者の氏名住所、議決権割合、国籍等を含め申告するものです。
つまり、司法書士のような嘱託人に、実質的支配者を証明させ、公証人がその旨認証するわけです。申告に問題がなければ、公証人は「申告受理証明書」という書類を発行します。株式会社を設立すると、当然、どこかしらの金融機関にて新規口座を開設することとなりますが、その際にこの「申告受理証明書」を提出するという段取りです。それにより、金融機関は、新しく口座を開設する株式会社の実質的支配者が誰であるかを確認でき、金融機関側の本人確認手続の資料となるわけです。
ここまでは、理念上の話ですが、実務上、必ずしもこの「申告受理証明書」がなければ口座を開設できないわけではないようで、私の依頼者の中にも、特段この書類は求められなかったと仰る方も多くいます。どうも地域によって差があるようです。
実質的支配者申告制度の改善
この申告制度は、FATFの勧告を考慮し創設された制度ですが、司法書士であれば、こうした制度の有る無しに関わらず、従前より発起人や取締役等の本人確認をしていたため、制度開始により負担が増えたわけではありません。
しかし、この制度実施以降に定款認証を嘱託した司法書士であれば、皆同じ感想を持ったと思われますが、この申告書上には、一部悩ましい欄がありました。
それが、「暴力団員等に該当するか否か」の判定欄、いわゆる反社チェック欄です。申告する際は、「該当、非該当」のいずれかを〇で囲む必要があります。もちろん、これまでもある程度の確認はしていましたが、そもそも司法書士には調査権限があるわけでもなく、どうしてもその調査には限界があるのも事実です。
この欄を初めて見たときに、一体どこまで調査すればよいのかと悩み、一般的な反社チェックはするにしても、それ以上のより高精度のチェックをすべきなのかとも考えました。
もともと公証役場では、これまでの蓄積されたデータにより、独自の反社チェックができるようです。それを補完するためのチェック項目なのでしょうが、それ以上のチェックとなると警察への照会しかありません。しかし、全ての事案で照会をすることは現実的ではなく、結局のところ、事案次第ということでしょう。反社の疑いが強ければ、警察への照会も必要になります。
いずれにしろ、この反社チェック欄については、以前より、調査権限がない司法書士に判定させるのは妥当ではないと考えていましたが、この件につき、日本司法書士政治連盟が法務省民事局に改善を申し入れしたところ、日本公証人連合会と協議検討の結果、この反社チェック欄の記入に代えて、実質的支配者自身の表明保証でも構わないことに変更されました(令和3年7月7日日司政連発第210703号)
本来、この制度は、金融機関による実質的支配者の確認を徹底させ、法人の真の受益者を特定することで、マネーロンダリング組織やテロ組織への資金供与を絶つことを目的とするものです。株式会社設立においては、司法書士による本人確認により実質的支配者は明確となりますが、果たしてその者が反社かどうかについては、上記のとおり司法書士には具体的調査権限がなく、また、今般の改善は、司法書士にとっては有難い話ですが、実質的支配者本人による表明保証では、その目的を果たせるか疑問です。
したがって、今後の課題としては、そうしたチェックを司法書士全体としてどのように行うかという点にあるように思います。例えば、銀行や証券会社などは、すでに警察のデータベースに照会ができるようです。会社設立に限らず、不動産登記等の各種業務において、こうした運用が必要となるかもしれません。
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