【司法書士試験】各論 刑法-その重要性

個別論点の要件を抑える必要性

 どのくらいの頻度になるかは不明ですが、司法書士試験の個別科目毎に記事にしていこうと考えています。
 まず今回は「刑法」について記載致します。「刑法」は3問しか出題がされず、「供託法」、「司法書士法」などと同様にマイナー科目とされています。そのため「民法」、「不登法」等の科目に比べると、重要度は低く、勉強時間も短くなるのが通常であり、また当然ともいえます。以下で私が考える「刑法」の重要性について述べますが、重要であるからといって勉強時間を余分に取る必要はありません。やはりマイナー科目であることは間違いなく、「民法」等に比べれば勉強すべき時間は少なくなって然るべきです。
 しかし、そうした科目にも拘らず、今回まず「刑法」について記事にしようと思ったのは、実は理由があります。それは、「刑法」における考え方は司法書士試験全体に通じる部分が多くあるからです。
 刑法は、総論と各論の2つから構成されます。総論とは、責任能力、故意・過失、罪数や共犯の類型など刑罰全体に関係する論点、各論とは詐欺、窃盗、強盗や放火等の各犯罪が論点です。
 私が思うに、司法書士試験の中でも最も単純暗記が効かないのが刑法です。何故なら、総論であれ各論であれ、刑法の問題は事例問題で出題されることが多く、単純暗記では解くことが難しいのです。例えば、事例問題とは以下のような問題です。
 例1
 AはBが盗みに入ろうとするのを知り、Bが盗んでいる間、Bが知らないまま外で見張りをしていた。この場合、Aに窃盗の共同正犯が成立する。
 答えは「×」ですが、この問題の場合は、共同正犯の成立要件、すなわち、共同実行の意思および事実のあるなしを判断する必要があります。本問の場合は、共同実行の意思がないため幇助となります。
 例2
 Aは図書館に行って本を館内閲覧のために借りだして読んだ後、これを古本屋に売却しようと考え、図書館から持ち出した。Aには横領罪が成立する。
 答えはこちらも「×」となりますが、横領罪の対象、自己が占有する他人の物にあたるかを判断する必要があります。本問の場合は、占有がAになく、図書館にあるため窃盗となります。
 このように、刑法の問題では、共同正犯とは〇〇である、横領罪とは〇〇であるというような形式で出題されることはなく、事例で出題されます。その意味では、民法の問題と同様の側面を持っているともいえ、同時に、民法よりもさらに、各論点の構成要件を確実に抑えていなければ解くことが難しい問題が多く存在します。
 特に、例2のような各論の問題においては、よりその側面が強く、例えば横領罪であれば、単に自己が占有する他人の物であればイコール横領罪が成立するとも限らず、それ以外にも、財物であること、不法領得の意思も必要です。また、そもそも占有に該当するのか、他人のものに該当するのか、領得行為に該当するのかについても判断する必要も生じます。
 以前「択一試験の勉強方法」の記事において、択一において、構成要件的な論点の場合は、確実にその構成要件を抑えなければならないと記載致しました。まさに刑法択一においては、もちろん単純暗記的な論点ありますが、科目自体の特徴として各論点の構成要件をしっかりと理解していなければ正誤に到達することができないことから、そうした側面が強いのが特徴です。
 刑法が持つ重要性とは、刑法の勉強とは司法書士試験全体に通じる、すなわち、司法書士試験の勉強をする上で必要となる考え方が刑法の勉強に端的に現れるということです。
 仮に刑法の勉強を過去問のみので済まそうとしたり、またそうでなくても単純暗記的な科目と認識しているのであれば、合格できないとまでは言いませんが、特に、より構成要件を検討する必要がある択一午前で、3問しか出題されない刑法だけではなく、全体として高い得点は取れません。
 刑法の勉強は、通常科目全体の中では後半にすることが多いと思われますが、それまで各科目の論点およびその構成要件をしっかりと理解することに努め、その上で問題を解くことを心掛けてきたのであれば、刑法を勉強した際に、刑法の細かく論点上の構成要件を抑える作業は司法書士試験全体に通じるものであると気づくはずなのです。つまり、こうした認識を持たないのであれば、他の科目においてもしっかりと論点毎の構成要件を理解する作業をしていないということを意味します。

 刑法における各構成要件を抑えるとは、前例以外でいうならば、例えば詐欺であれば、問題毎に、欺く行為→錯誤→処分行為→財物・利益の移転→損害発生というプロセスを検討しているかどうか、また特に処分行為にそもそも該当するか、財物・利益の移転に該当するかについてはさらに踏込んで検討する必要が生じます。窃盗であれば、客体に対する検討、すなわち他人の占有する他人の物に該当するかどうか、着手・既遂時期についての検討も必要となります。
 後者の窃盗の場合、比較的分かりやすい問題が多いために、実際の問題を解く際には、実は意外と単純暗記的な解き方で済んでしまうことも少なくはありませんが、その場合であっても前提としてこうした論点の構成要件の検討を意識的に行うことは、刑法の勉強をする上で最も重要なことです。そして、このように構成要件を抑えた上で、それに照らし合わせ解答を導くことが、択一全体においても同様に必要となることと考えます。

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