いわゆる抹消・移転・設定

抹消・移転・設定の減少

 司法書士の業務は、日司連の中央研修等でも学ばれたと思いますが、明治期の代書人制度に端を発します。当時、代言人という制度もあり、これが今の弁護士となり、代書人は戦前に司法書士として定められました。

 本来、司法書士は、明治期から、登記業務だけではなく、今と同様に裁判所へ提出する書類の作成も業務としていましたが、やはり中心は登記業務だったようです。

 やはり不動産というのは、経済においても花形です。戦後から現在に至るまで、様々な好景気を経て、都度多くの不動産が流通してきました。そして、ほとんどの取引において司法書士が登記業務を受任してきたわけです。特に、これまでの日本経済は、戦後から90年代初頭のバブル経済崩壊まで右肩上がりにありましたので、尚更、不動産取引も盛んだったことが想定され、司法書士のニーズも高かったと思われます。

 しかし、バブル崩壊後は、最近のアベノミクス期など一時的に景気が回復した時期もありますが、不動産取引数は、経済に比例して、緩やかな下降状態にあるというが一般的な認識でしょう。

 ちょっと、実際のところどうなのか気になったので、全国の土地取引数を確認してみました、東京都都市整備局のデータによると、全国の土地取引数の推移は以下のとおりとなります(参照元:東京都都市整備局資料

全国土地取引数

年度 取引数(千件) 指数
昭和55年 2,598 100
昭和60年 2,132 82
平成元年 2,258 87
平成10年 1,705 66
平成20年 1,294 50
平成31年 1,310 50

 上記表には記載していませんが、平成23年に1,136(千件)で最も土地取引数が落ち込みました。その後若干持ち直したものの、昭和55年を100とすると、その取引数は、半分となっています。正直なところ、思った以上の減少でした。緩やかどころではない印象です。

 なお、上記リンク先にあるデータからは、東京都限定の取引数も見ることができます。それによれば、東京都の取引数は、昭和55年を100とすると、平成31年は3割減の指数70となっています。つまり、地方において、より取引数が減少していることが見て取れます。

 司法書士の不動産登記業務とは、必ずしも売買決済だけに限りませんが、それでも不動産取引数が減少すれば、司法書士の不動産登記業務も相対的に減少することは自明な気がします。また、売買決済における報酬は、比較的、他の不動産登記業務に比して高くなることから、それが減少するということは、司法書士の事務所経営にも響いてきます。

 不動産取引数にくわえて、不動産登記件数についても気になったので、少し調べてみました。以下は、e-statの登記統計抜粋です。

全国不動産登記(土地)件数

年度 土地登記件数(千件) 土地個数(千件)
平成4年 14,410 32,206
平成10年 13,835 30,329
平成15年 13,438 29,799
平成20年 10,390 24,007
平成25年 9,148 21,889
平成31年 8,666 20,061

 公的機関が出している平成4年以前のデータは見つけれらませんでした(探せばあるかもしれません)。登記件数は、所有権移転、抵当権設定等の総数になるため、必ずしも売買件数を直接的に表しているものではありませんが、いずれにしても、登記件数が減っているのは明らかです。

 昭和期から平成期の始めにおいては、司法書士は、こうした不動産流通の多さに比例して、仕事を得てきました。その後、不動産流通が減少するに比例して、司法書士の不動産登記業務も減少していき、それが現在も継続して減少していることが読み取れます。おそらく、今後についても、人口減少からくる需要の減少を考慮すると、これが大きく回復することはないでしょう。

 「いわゆる抹消・移転・設定」とは、これまで売買決済において、(根)抵当権抹消登記、所有権移転登記、(根)抵当権設定登記の3セットが多く見られたことに由来する表現です。多くの売買決済が発生し、都度この3セットのルーティン登記が申請され、司法書士もその恩恵を受けてきたのです。

 現状、売買決済業務においては、供給される業務に比して司法書士の数が多すぎるため、それが仕事の取り合いにつながっています。これは、大都市であっても地方であっても同様で、一部の司法書士事務所が多くの業務を寡占している状況も見られます。

 それでも、不動産登記業務は、いまだに、司法書士の主要業務であることに変わりなく、売買以外においても、金融機関からの仕事である担保権の設定や、相続分野における相続登記なども存在します。しかし、結局これらの業務についても、競争は激しく、仕事を受任することは簡単ではありません。

 そのため、司法書士業界においては、私が司法書士になる以前から、司法書士の活躍分野の拡充に努めていますが、それは一朝一夕に成るものではなく、今後ますます司法書士の取り巻く環境は難しくなると想定されます。

司法書士という資格

 現状、司法書士試験の受験者は減少しています。これは、前項のような不動産取引件数減少に伴い、不動産登記件数も減少し、合格してもその後は簡単ではないことが認知されている結果でしょう。確かに、前述のとおり司法書士を取り巻く環境は厳しくなり、そのとおりの面はあるのですが、一方で司法書士という資格が、十分に魅力のある資格であることも事実であり、社会貢献性も高い職業であります。したがって、一生をかけて従事する仕事としては、目指す価値のある資格であることに変化はありません。

 今、というより、既に何年も前からかもしれませんが、司法書士の業務環境は過渡期にあります。登記件数が減少しているため、それに代わる業務へとシフトしつつあります。そうした最中に一司法書士として身を置く者として、いつも感じることがあります。それは、司法書士ほど研修等を徹底し、最近でいうところの高いコンプライアンス意識を保持している資格業は他にあまりないという事実です。

 合格をされた方であれば、合格後に中央研修、ブロック研修、配属研修及び特別研修などがあることを知り、まさに今もその研修途中かもしれません。また開業後も、毎年各種研修で必要単位数を取得しなければなりません。数年前から、その必要単位のうち数単位が倫理研修となっています。

 このように、司法書士の研修は、おそらく他の士業に比べても徹底しており、こうした研修からも、各司法書士の意識は高められていく面があります。しかし、司法書士という資格者が持つそうした意識の高さを世間が認知しているかと問われれば、残念ながらそうではなく、一般的な認識として、「司法書士=登記をする人」、「登記をする人=しっかりしている」などというイメージは持たれているかとも思いますが、あまり司法書士が何なのか、また司法書士が上記のような高い意識を持つ資格であることは知られていません。人によっては、そもそも行政書士と区別がついていない方も多いのが実情です。

 私は、もう少し世間に対し、司法書士という資格のもつ信頼性や高い専門性をアピールすることが必要ではないかと感じています。それが長期的にみれば、依頼の増加につながり、司法書士の活躍の場も増えることになると考えています。

 現状、例えば、相続などにおいては、相続税が発生する場合は税理士、それ以外の場合であっても行政書士や金融機関に相談に行く方も多く、必ずしも司法書士がそれらに優先する選択肢とはなっていないのが現状かもしれません。これは、まさに、司法書士自体の認知度が低く、どのような資格かよく分からないと思われている結果に他なりません。

 これまで、不動産登記件数が多い時代は、いわゆる抹消・移転・設定登記を申請していれば、事務所経営も成り立った面もあったのかもしれませんが、不動産登記業務が減少している今、司法書士の持つ信頼性、高い倫理観等の認知度を高めることがより重要な気がします。それにより、一般の方もより司法書士事務所に相談に来やすくなる状況が生まれ、ひいては各司法書士の業務増加にも繋がると思うのです。

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