商登法記述の特徴

商登法概論

 当初、「不登法の解答の流れ」の記事を投稿後、次に「商登法の解答の流れ」の記事を投稿しようと思っておりました。しかし、途中まで記事を書いていて、「これは果たして意味があるのか」と疑問に思い、実はその記事の投稿を途中でやめてしまいました。
 商登法の場合は、こちらの記事に書いた通り、問題文全体を検討することなく、添付書類(議事録等)を見て、登記すべき事項があれば、ドンドン解答していくのが基本です。物権変動を検討した上で解答すべき不登法のように、最後まで検討する必要はありません。
 また、変更事項が適正な手続きに基づいてなされているか、また変更内容が適切かどうかを判断しさえすればよく、つまり、その変更手続きに係る会社法や商登法の知識があるかどうか、要は記憶しているかどうかが試されます。
 そのような分野において、実際の解答の流れを逐一記事にしても、結局は予備校の解説のような前提知識たる会社法や商登法の個別分野の記事になってしまうと思ったのです。
 私はこのブログで細かい論点について記事にするつもりはありません。それはまさに予備校やテキストで各人が勉強すべきことであって、ブログで勉強するべきことではないと考えるからです。むしろ、このブログでは、私が考える合格に際し必要な取り組み方や考え方的なことを記事にしようと思っているので、ブログ趣旨と反するような気がし、途中まで書いたのですが記事を投稿するのを中断しました。

 したがって、不登法については解答の流れを記事にし、商登法においてはしないというのは、ブログ全体からみると何か整合性が取れていないような気がしないでもありませんが、この記事では、それとは異なり、商登法記述について概括的なことを述べたいとと思います。
 結論からいうと、商登法の論点は、比較的単体で構成されるものが多く、単体の論点毎の知識をしっかり記憶してさえいれば解答できるという特徴があります。
 例えば、募集株式の発行決議がされている場合に要求される知識は、細かい内容は省略しますが以下の通りです。
・決議機関についての知識
・第三者割当における、株主への通知・公告についての知識
・株主割当における、株主への通知の知識
・通知・申込・割当の知識
・総数引受契約の知識
・現物出資の知識
・資本金の計算の知識
・上記に係る添付書類の知識
 募集株式の論点が出た場合に、その発行が適正かどうかは、上記の論点を把握していることが必要です。添付書類についても、募集株式の発行の際に必要となる「決議機関議事録」「払込み証明書」「引受けの申込み書」「割当機関議事録等」「資本金の計上証明書」をまず覚えているか、そして例外的に必要となる書類、例えば「期間短縮に係る株主同意書」など、反対に例外的に不必要となる書類、例えば「割当機関議事録」などの知識があるかどうかで、解答できるできないが変わってきます。
 知っていれば書け、知らなければ書けないという単純暗記的な側面が強いといえます。
 以前のブログで、私は平成24年の記述がほぼ白紙であったと申し上げました。問題を見て、「これは有限会社の商号変更の論点を問われているんだな」と理解しましたが、有限会社の商号変更の申請書をどのように書くかほとんど覚えていませんでした。このような状態ではもちろんまともな解答など記入できる訳がありません。

 商登法においては、議事録上で決議された事項が明記されているため、商登法を苦手としている方であっても、何を問われているかは分かるはずです。理解をしていないというよりも、記憶が不十分であるだけです。
 不登法の場合は、申請書の書き方などの単純暗記的な要素もありますが、物件変動を添付書類等から自分で判断して、順番通りに、何をどのように申請すべきかを判断しなければなりません。単に単体の知識があるだけでは問題は解けず、全体を複合的に判断して結論を出す必要があります。これに対し、商登法は当初から結論は示されており、後はそれが適正かどうかを判断するという点が決定的に異なります。
 商登法を解く上で必要なのは会社法の知識です。そして、不登法は民法です。一般に、仕事等で会社法に日常的に触れるような受験生以外は、会社法より、民法の方が馴染み深く理解がし易いことが多いと思います。会社法については、司法書士を受講しようとして初めて触れたという方も多いのではないでしょうか。
 こうしたことから、商登法は当初より苦手意識を持ってしまっている方も多くいると思われますが、単体の論点の正誤を判断しさえすればよく、また会社法自体が、手続法的な側面が強く、単純暗記的な論点も多いため、記憶さえ確かであれば、不登法よりは得点を取りやすい側面があるのは事実です。
 もちろん、商登法においても複合的な論点は存在します。そして、商登法を難しく見せている原因の一つであると思われますが、商登法の複合論点は積み重ねであるという特徴があります。
 役員の変更登記などが典型ですが、Aが就任し、Aが退任しBが就任、そして今度はCが就任などのように、先の変更の上に更に変更がなされる論点のことです。積み重なることにより問題が複雑に見えてしまう傾向があります。
 株がらみでは、例えば、新株予約権を発行し、その後に発行可能株式総数を減少する決議をした場合の発行可能株式総数と行使期間が到来した予約権の目的となる株式との留保枠の関係なども同様です。
 自分で変更した登記が基礎となる点で、不安定な状態であると錯覚しがちですが、一変更自体に限って考えると、最初の変更も後の変更も単純暗記的な知識で対応が可能な問題であることに変わりはありません。

 また複合的な論点であっても、積み重ねで検討することなく、答えを導き出せるような論点もあります。
 例えば、募集株式関連の論点で、譲渡制限株式の設定と募集株式の発行決議がされ、募集株式の効力発生日が先に到来した場合に、譲渡制限の設定登記は受理されないといった論点などがこれにあたります。
 また、平成25年度試験においては、100%減資の論点が出題されました。こちらも多くの受験生を悩ました論点です。
 しかし、これらの論点にしても、前者についてはまさにその知識があるかないかを知っていれば済みますし、後者についても100%減資が可能かどうか、またその際の申請書はどのように記載をすべきかについて知ってさえいれば正解が導けます。
 このように、商登法の得点をあげるためには、まずは会社法および商登法の知識が明確に記憶されているかが重要です。論点は議事録上に明示され、単にその論点の知識があるか無いかで左右されるのであれば、しっかりとした記憶がないだけで解答ができないというのは、実は非常にもったいないといえます。
 平成25年度試験では、免許税だけの解答欄がありました。免許税の総額と内訳を記載する問題です。私はここではミスはしなかったので想定ですが、免許税だけの解答欄ということは配点割合は意外と高く、満点の場合と1点でもミスをした場合の差は大きかったのではないかと推測します。
 問われた免許税の一つに、支配人の代理権消滅の免許税の論点がありました。支配人がらみの免許税は、いずれも3万円ですが、選任・代理権消滅の区分と支配人を置いた営業所移転の区分が異なるのはご承知の通りです。また、支店についても出題がありましたが、支店も設置、移転、廃止と区分が異なります。
 私は、意外と、この免許税の欄でミスをしなかった人は少なく、登記すべき事項は全て分かっていたのに、支配人、支店免許税の単純ミスを犯した方は多かったのではないかと推測します。このように記憶が定かであれば何にも難しくない問題でミスをすることは、前述の通り非常にもったいないと思いますし、足切りにおいて致命的なミスにもなりかねません。
 これまで、当ブログにおいて、再三にわたって、テキストの論点を中途半端に覚えるのではなく、完全暗記すべきと記載してきましたが、特に商登法記述においてはよりその側面が強く、試験範囲の知識をしっかりとテキストを読込み吸収しているかが鍵となります。
 手続法的な側面が強い会社法の知識を吸収するのは、初学時には困難が伴うことが通常です。しかし、手続法は、一度記憶してしまえば、以後理論面を深く検討することなく、勉強を進めることができるようになります。テキストも、民法に比べると、速く読込むことが可能となります。
 商登法においては、決議内容を最終頁にある聴取記録と照らし合わせながら判断していきます。これも意外と面倒な作業ですが、こうした問題形式は、予備校等の答練で数をこなせば自然と対応できるようになります(参考記事:記述試験の勉強法
 しかし、答練をやる前に、テキストの知識をしっかりと記憶していることが必要なのは言うまでもありません。
 商登法記述が苦手という方は、会社法・商登法の知識が不十分なだけであり、そうした状態にも拘わらず記述問題を解き、尚更苦手意識を強くしてしまっていることが多いと思われます。
 したがって、記述が解けないのであれば、記述の練習をするのではなく、一度会社法・商登法のテキスト戻り、それを読込むことで、状況が大きく改善されることが十分考えられます。

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商登法記述の特徴” に対して4件のコメントがあります。

  1. アチ より:

    初めまして、まだ少ししかブログを拝見してませんが凄く参考にさせてもらっています。
    まだ択一の基準点にも達しない未熟者ですが、質問させていただきます。
    書式のひな形は、どの程度正確に記載すれば良いのか。例えば、登記の事由で新たな機関を設定する場合、何々設置会社の定め「の」設定と記載される。しかし、登記すべき事項では年月日何々設置会社の定め設定と記載され、「の」が省略される。一例ですが、事由と事項では「の」の記載の有無で誤記載になるのか。
    また、添付書面は記載方法の自由度が高そうですが、株式の引き受けの申し込みがあったことを証する書面など、過去形の記載がある。
    このように、各欄での記載はどの程度正確性を要求しているか教えて頂けたらと思います。
    これに付随して、不動産登記法でも記載の正確性が知りたいです。例えば、名変などで、「•」や「、」の使い方は統一してるのかなど。
    正確性が要求される記述式なのに、予備校の本は誤植や独特な記載があったりして困惑しております。

  2. @40 より:

    コメントありがとうございます。
    私も最初は同じような疑問を持ちました。
    結論からいうと、そこまで気にしなくても問題ありません。
    例えば、取締役会設置会社の定めの設定において、
    事由で「取締役会設置会社の定め設定」と書こうが、「取締役会設置会社の定め(の)設定」と書こうが問題ありません。
    また登記すべき事項において、
    「年月日設定 取締役会設置会社」と書こうが、「年月日取締役会設置会社の定め設定」と書こうが、おそらくマイナスはされないと思います。
    不登法において、「・」「、」が具体的に何を指しているのか分からない部分もありますが、同様に、「・」「、」を入れようが入れまいが問題ないと思われます。
    多分「何番所有権登記名義人住所変更(、)氏名変更」などのことですかね。
    通常は、「、」が多いと思いますが、そこまで深く気にしないでも大丈夫です。
    「株式の引受けの申込み」に関しては、ちょっとすいません過去形とは意味が分からなかったのですが、
    「引受けの申込みを証する書面」と書こうが、「引受けの申込みがあったことを証する書面」と書こうが、意味は同じなので問題ないと思います。

  3. アチ より:

    早い返信、本当にありがとうございます!
    質問の意図を感じてもらって嬉しいです。記述式の核心ではありませんが、書式集を繰り返し読み込む上で非常にストレスを感じていたので。
    こちらのブログは、本当に共感する事が多く(市販のテキストの守備範囲や、反復学習の必要性、出題意図の把握など)、とても参考にしています。私も出題範囲に気をつけながら、これと決めたテキストを30回程繰り返して満点を狙いたいと思います(今回はハイブリッド総整理で間違えたところだけ10回程繰り返し基準点超えを狙う姿勢の結果、午前29午後24でした)。まだ、午後択一だけは出題意図を把握出来ておりませんが^^;
    下手な表現ですが、何度もこしたスープの上澄み液のような洗練さを、ブログ主さんに感じております。

  4. @40 より:

    ご参考になったのであれば良かったです。
    午前29とれてるということは、あとは記憶さえ確かならきっと合格できると思います。
    午後は手続法的な暗記が多いので。
    勉強大変だとは思いますが、頑張ってください!

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