受験時の六法と実務の六法

受験に六法は必要か

 久しぶりに投稿します。
 なかなかブログを書く時間的な余裕がなく、少し放置気味になってしまっております。このブログは、受験生の方に有益な情報を提供できればという目的で立ち上げたものですが、当ブログの記事は、中途半端な記事は書きたくないこともあって、1記事書くのに半日以上はかけることがほとんどでした。内容は、私自身の経験則に基づいております。
 ほぼ、お伝えしたい内容は既に記事にしたこともあり、また時間的にブログを書く余裕もないこともあって、このままの状態で暫らく据え置こうと考えておりましたが、最近のアクセス数を見ると、いまだに1日250~300人程度の方にブログを見て頂いており、更新もしていないのに何か申し訳ないように感じていたのも事実です。
 そのため、経験に基づいたものというより、むしろ少しコラム的な内容となってしまいますが、久しぶりに記事を書いてみます。時間的な余裕がないことは変わらないため、若干別ブログと同様に徒然的な内容となりますが、その点はご容赦下さい。

 下記は学者向けQ&Aに記載したものです。

受験に六法は必要ですか

合格者のほとんどは六法を持っていると思われます。実際、テキスト等で不明な点があった場合に条文を引くことで理解が進む場合があります。ただし、膨大な試験範囲の論点を覚えるためにテキストを理解するだけで相当な時間が必要になる中、常時六法まで目を通す時間はない、というのが私の本音です。私は買いましたが、どちらかというと、法律の勉強を志す上で最低限傍に置いておくべき書籍ではありますが、無ければ合格できないとまでは言えません。


 Q&Aで述べたように、司法書士試験において、六法は必須ではないと私は思っています。しかし、択一については、六法中心で勉強して合格することも無理ではありません。矛盾しているようですが、両者は単に合格するための方法の違いであり、六法無し、つまり予備校のテキスト等で勉強するか、六法を駆使して勉強するかの違いでしかありません。
 効率面でいうならば、六法を使用するよりも、テキストを用いる方が遥かに効率的な勉強が可能となります。何故なら、テキストは試験範囲の法令等の条文を取捨選択し合格に必要な条文及びその解説を掲載し、また、判例についても同様に合格に必要な判例のみを掲載しているからです。
 テキストを使用し、かつ、六法をひいて条文を確認することで、より一層の理解を深められる場合もあるでしょう。しかし、そもそも司法書士試験のテキストとは、合格のためそれ1冊で完結するものであるべき、というのが私の考えなのですが、そうである以上、六法をひかなければ理解できないテキストはテキストの用を足さないといえます。(なお、六法を全く引く必要がないということではありません。頻度の問題です)
 膨大な試験範囲の中から、合格に必要かつ十分な情報を掲載しているかどうかが優れたテキストかどうかの基準となるのであり、他にも教材を必要とするなど、その基準に満たないのであれば優れたテキストではないというのが持論です。

 私が用いたLECの教材だけではなく、他の予備校の教材の中にも、そうした優れたテキストはあると思われますが、六法を用いるよりも、それらテキストを使用した方が、合格の可能性は高まります。何故なら、司法書士試験の試験範囲は膨大であるため、効率的な勉強ができるかどうかも、合格のためには重要となってくるからです。
 司法書士試験は、試験範囲が広いために記憶の継続が難しいと、これまで当ブログ記事内において、何度か述べてきました。だからこそ、何度も繰返し繰返し論点を読込むことで、記憶を明確化して試験に臨む必要がある訳ですが、非効率な勉強法の場合には、1分野にかける時間がより必要になりますから、その分、他分野の記憶が失われやすくなります。
 確かに、例えば六法中心で民法を完全に理解し、次も六法を駆使し、不登法の条文を理解することも理論的には可能かもしれませんが、六法よりも理解しやすく、試験用にまとめられた効率的な勉強が可能となる教材があるのにそれを用いない理由はないような気がします。また、テキストだけで理解が完結せず、いちいち六法をひかなければならない場合も同様です。
 したがって、決して六法を否定する訳ではないのですが、六法なくして合格できるテキストを選ぶということも、試験に合格するためには、重要なことの一つと考えます。
 これに対し、合格後の事情は少し異なります。合格後、私が今受けているような各研修の講義が始まります。これら講義は、比較的概略的な内容なものがほとんどですが、こうした研修を経由するにつれ、私もそうですが、各人の中で、司法書士の業務というものが次第に明確になってくるはずです。
 司法書士業務の中で『登記』は、あくまでも、一分野に過ぎません。確かに、登記のみを業務としている司法書士は多くいますが、司法書士が行いうる業務というのは、実は多種多様です。そして、実際に多くの司法書士が業務として、登記のみに限らずにそれらの業務を行っています。
 例えば、簡裁代理権もその一つかもしれません。では、仮に、簡裁代理権を取得し、簡裁で代理人として業務を行うにあたり、試験範囲の知識さえあればよいかというと、そうではありません。
 試験に合格すれば、民法等の基本的な素養はあるはずですが、実務を行うにあたっては、実務上の知識にくわえ、それ以外の多くの法律知識が必要となります。それら法律知識を吸収するためには、条文を読むことが必要となってくるのです。
 実務で必要な法律知識を得るために、試験におけるテキストのような実務解説書ももちろん有用です。受験時と同様に、六法の条文をひくよりも、分かりやすく解説された書籍を読む方が理解が進むこともありえますが、試験と実務においては根本的に異なる部分があります。
 試験においては、あくまでも、試験に受かりさえすればよい訳です。つまり、〇×を正確に解答し、記述問題を解けさえすればよいのです。しかし、実務では〇×で答えて済む場合など皆無でしょう。依頼者から質問を受けた際の回答や自分の意見を述べる際には、しっかりとした根拠がなければなりません。根拠とは、つまり、法解釈の整合性であって、各法律の条文に基づいた発言が求められます。
 実務においては、試験と異なり、人間を相手にしなければならない訳ですから、〇×で正誤を判断しさえすればよかった試験とは異なるアプローチが必要となるのは当然です。そのための拠り所になるものは、結局のところ、六法に記載されている各法律であって、法律を構成する各条文です。解説書に書いてあることであっても、試験のテキストのようにそれだけで済ますことなく、条文を確認することで、自信をもって言葉を発することが可能となります。また、これは私が現在感じていることですが、実務家の中では、根拠条文を明確に示すことも多く求められます。試験のように、テキストで完結することなく、条文をもとに記憶していくべきです(なお、優れた実務解説書には、必ず条文番号の記載があります)
 条文に書いてあることは、原則、絶対であり、解釈に疑義がある条文もあるにせよ、条文に書いてあることは誰にも否定できません。そのため、条文をもとに、自己の主張などを理論構成することが、説得力のある発言につながります。
 今回の投稿は、試験合格後から、日々、条文(六法)の重要性を実感するとともに、受験時の位置づけとは異なると感じたことから記事にしてみました。
 おそらく、今、六法を活用して勉強されている方もいるかと思います。効率的な勉強、つまり、試験に合格するためだけであれば、前述の通り、やはり優れた1冊で完結するテキストに勝るものはありません。従って、試験合格だけを目標とするのであれば、原則六法不要なテキストを用いるべきという考えは変わりません。
 しかし、研修中ではありますが、今感じるのは、受験時から六法を活用することも、合格後の実務を考えれば有用なこととも感じます。なかなか、受験時は合格後を考えるほどの余裕もないかとは思いますが、仮に今そのような勉強を続けている方がいるのであれば、決して将来的には無駄にはならないはずです。

受験時の六法と実務の六法” に対して2件のコメントがあります。

  1. ごろにゃん より:

    @40様
    はじめまして
    ブログの方、非常に興味深く拝見させて
    いただきました。
    司法書士の受験を真剣に考えているため、
    できましたらご連絡取らせていただけないかと
    考えております。
    もしよろしければ、薄謝程度かと思いますが、
    勉強についてのコンサルタントの様な事も
    お願いできないかと考えております。
    私事ですが、10年以上前に公務員試験を
    受験した際、法律の勉強を経験しました。
    ( 一次の学科は合格、2次の面接不合格 )
     
    司法書士とはレベルが違いますが、テキストを
    何度も繰り返し読むのが重要と感じております。
    @40様もテキストの読み込みを中心にされて
    いたようであり、非常に共感を覚えました。
    論点の洗い出しのことも参考になりました。
    その他、最終的にどの程度のレベルまで
    読み込まれたのか、それを一番お伺いしたいと感じております。
    非常に高得点で合格されているということは
    多少のハプニングも関係ない程の確固たる
    実力をつけられたと思います。そのレベルに
    達するには、テキストの内容をどの程度まで
    把握されたのかにもっとも関心があります。
    ※民法、不動産登記法は25回読まれたと
     ブログにあり、非常に参考になりました。
    まずは記載しましたアドレスに、ご返信を
    いただけましたら幸甚に存じます。
    何卒よろしくお願い申し上げます。
      

  2. @40 より:

    >ごろにゃんさん
    コメントありがとうございます。
    返信遅れて申し訳ありません。
    ごろにゃんさんは、メール頂いた方ですよね?
    もし別の方であれば教えて下さい。
    テキストの読込みの度合いですが、完全に記憶するまで読込みました。一字一句テキストを記憶ではなく、論点を完全に記憶するという意味です。
    例えて言うなら、問題集の問題を全て記憶するということですが、問題集のみをやって理解なく記憶するということでもありません。
    問題の背景にある、意図、つまり論点を理解して、かつ、記憶するのです。
    一回記憶しても、すぐ忘れてしまいますから、それを何度も繰り返すことで、徐々に記憶が強化されます。
    テキストを読込むのは、論点の説明が明確に記載されているため、単純に問題のみをやるよりも、論点を意識しながら、かつ、網羅しながら記憶できることが理由です。
    宜しくお願い致します。

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