開業と勤務

就職独立

大都市での傾向

 「開業か勤務か」、合格後、多くの方が、どうすべきか迷われることと思います。私の場合は、年齢的に既に40歳を超えていましたので、なかなか雇用してくれる事務所自体もなく、そもそも勤務という選択肢はありませんでしたが、年齢的に若い方や大都市にお住まいの方であれば、勤務先は多くあるでしょう。

 私は、合格後の特別研修を名古屋で行いました。そこには、名古屋市や近隣市在住で20代、30代合格者が多くおり、40代以上は私を含め数えるほどだったと記憶しています。それら2、30代合格者の多くは、合格翌年2月~3月の特別研修中に勤務する事務所先が既に決まっているようでした。「どこに就職することにした」、「どこの面接を今度受ける」など、そのような話題が多かった気がします。合格発表が10月のことを考えると、皆さん動きが早く、そうした光景を見るにつけ、名古屋近郊の多くの合格者にとって、開業自体がそもそも選択肢にないような印象を持ちました。開業することに決めていた私にとっては、全く違う傾向に接し、何か不思議な気がしたのをよく覚えています。

 名古屋の場合は、やはり大都市ですから、多くの司法書士事務所があり、合格者を募集している事務所も少なくなく、こうした傾向になるのかもしれません。当時、東京の合格者とも話をしましたが、東京においても比較的多くの合格者がまずは勤務司法書士としての道を選択するように見受けられました。

 こうした背景には、単純に多くの雇用元が存在するということ以外にも、大都市圏においては、新規の開業経費もかさむであろうこと、大会社等の規模の大きな組織も多く、組織が大きければ大きいほど、そこから新規で仕事を獲得することは簡単でないと想定されがちであることも影響しているのでしょう。

地方での傾向

 地方市町村においても、勤務先がないわけではありません。しかし、私の所属司法書士会において、同期合格は15、6名だったと記憶していますが、そのうちのほとんどが、研修終了後に即開業しました。勤務した人の中には、もともとそこの事務所で補助者だった方などもいましたので、実質的に勤務司法書士の道を選んだのは、数名だった気がします。

 開業者のうち、補助者等で業務経験があった方や親が土地家屋調査士などの方もいましたが、私を含め6、7名は、合格まで司法書士業務に全く縁がなく、もちろん配属研修等は経由していますが、実務経験がないまま開業しています。

 また機会があれば、別記事でも説明しますが、地方においては、開業のコストは、大都市に比べれば比較的かかりません。道路に面した事務所であっても、場所によっては、10万円を下回る物件もあります。ワンルームであれば、月額3万円程度で済みますし、そもそも自宅でも開業することは可能です。また、先日のブログのとおり、結果が伴うかはともかくとして、少なくとも仕事を受任するための営業行為先は存在するため、やはり地方においては、大都市圏に比べ開業しやすい環境にあるのは事実でしょう。

開業か勤務か

 独立開業すれば、全て自分で業務を処理する必要があり、様々な業務により成長していくことが可能となります。同じ業務であっても、勤務している立場と開業している立場では、後者の方が成長度は高くなります。勤務して組織によりいわば守られている立場と、一個人として責任を背負っている立場では、成長の密度が異なるのは当然です。

 また、司法書士業務そのものではありませんが、事務所経営に関しても、開業して初めて分かることもあり、どのような結果であれ、キャリア形成や人生経験に貢献するものであることに間違いありません。

 反面、仕事はあくまでも自分で獲得しなければなりませんから、経験できる業務の数は、自分次第ということになります。仮に、仕事の数が少なければ、その経験値も比例して少なくなりますし、多ければその逆です。また、どのような業務の経験をするかも、本人次第となります。

 司法書士の資格は、他の資格と異なり、合格後即開業に適した資格といえます。私のいる地域のように、多くの実務未経験者が、勤務することなく、開業していく事実がそのことを示しています。前述のとおり、大都市部において開業することが難しい背景があることは承知していますが、では、そうした点を考慮しない場合、勤務することのメリットとは、何なのでしょうか。

 勤務することで、勤務司法書士は、当然にその事務所の持っているノウハウを知ることができます。将来の司法書士人生においても、とても大きな財産となるでしょう。私のいる地域で、ある方が合格後に勤務司法書士の道を選びました。当時30代前半だった気がします。2~3年間勤務し、今は独立し活躍されています。

 その方の勤務先ですが、裁判関係書類作成業務を多く受け持つ事務所であったようで、破産申立や債務整理などの業務に多く携わることができたようです。私は、前回のブログに書いたように、年齢的にも開業するしかなく、開業後は事務所経営の観点からも、不動産登記に傾いた業務をしてきましたが、こうした経験ができたこの方を羨ましく思う部分もあります。というのも、破産や債務整理などは、なかなか未経験の状態から取り掛かるのは簡単ではなく、試行錯誤しながら業務を進める必要があり、判断に迷うことも少なくありません。また、相手方の依頼者は、ある意味、人生の岐路に立っているわけですから、それを受任する司法書士も、より慎重な執務姿勢が求められます。こうした経験を、勤務元の代表司法書士の元で学べることのメリットは計り知れない気がします。

 したがって、勤務先がこうした裁判系の業務を多く扱い、それを学べるのであれば、勤務司法書士としてそこで数年間修行することは、将来にとって大きなプラスとなるはずです。一方で、事務所によっては、登記業務、特に不動産登記業務を中心に経営している事務所もありますが、こうした事務所においてはどうでしょうか。

 私自身が登記中心であることもあり、さらに、ほとんど未経験で開業し現在に至ることもあって、登記中心の事務所に勤務することは、そこで学べるものがないとは言いませんが、勤務すれば必ず多くの実務経験が身に付くとは言い難い面があるとも感じています。もちろん、開業すれば自分で受注しなければならないはずの各種業務が既に用意され、そうした業務を通じて成長できるのは間違いありません。複雑な事例や困難事例などにおいても、自分以外の司法書士と相談しながら業務を遂行できる点などは、勤務司法書士の特権でしょう。また、登記中心であっても、それ以外の業務、例えば上記の裁判系業務が発生する場合もあるでしょう。

 ただ、登記中心の事務所においては、結局は、多くのルーティン的な業務を繰り返す側面があるのは否めなく(だからこそ経営的に成り立つわけです)、こうした業務ばかりに追われるのであれば、そこで得られる経験は大きくありません。例えば、売買決済においては、売買代金支払時に、金融機関などで立会業務が発生することを、おそらく中央研修等で学ばれたと思います。研修では、電話で依頼があった時点から代金支払時までの一連の流れをロールプレイなどを通して勉強されたかもしれません(私のときにはありましたが、もしかしたら今はもうないかもしれません)。実際に、こうした手続をとおしても、各司法書士は、その売買手続が法的に適正かを判断する場合もあることから、業務において重要な手続の一つであることに変わりはありませんが、こうした事務は司法書士事務所でなければ学べないものでもなく、一般企業経験や通常の社会経験があれば、ごく自然に遂行できる類のものです。

 不動産登記中心の事務所においては、まさにこの売買決済が多く発生しますが、各勤務司法書士が実際に担当するのは、当日の売買代金支払時の立会業務となることが多いようです。司法書士は、売買代金支払を確認するためにこうした決済に立会う必要がありますが、決済業務は1時間以上かかることもあるため、一人の司法書士が一日に行える決済業務には限りがあります。イレギュラーが発生し、決済時間が思ったより長引くこともよくありますから、午前中に2件以上の決済予定を入れることは難しく、通常であれば午前午後各1件のせいぜい2件です。したがって、特に大安等の吉日において、一日に多数の売買決済を受任する事務所においては、司法書士の数が重要となるのです。

 日によっては、午前午後1件づつの業務を担当することもあるかもしれません。しかし、こうした立会業務も、1件1件の業務の重要性はともかく、継続的にそこで学べるものがあるかと問われれば、あまり期待できません。決済業務を担当し、毎日機械のように同じ業務を遂行することは、実務経験という観点からすると得られるものは少なく、経験を積むために勤務するのであれば、このような業務ばかりにならないように注意が必要でしょう。

 立会業務だけに限らず、売買に基づく所有権移転登記であれば、依頼から決済までの一連の業務も、1、2回程度経験すれば十分な気がします。これは、抵当権の設定、抹消やその他登記においても同様です。もちろん、単純な登記であっても、都度悩むことは生じますし、検討すべき状況も発生します。また、各手続毎に、一つとして同じ状況はないことから、業務毎に成長できる側面はあります。実際に、私も、こうした売買登記等に際し、すんなり何もなく完了した登記よりも、何かしらの問題が生じた登記の方が多い気がしますが、それでも、こうした経験は、勤務することで得られる特有の経験ではありませんし、そのために勤務するほどのメリットとはならない気がします。

 したがって、実務経験を学ぶために、こうした不動産登記中心の事務所に勤務するのであれば、ルーティン的な業務に限らずに、自ら率先して業務を担当していく姿勢が不可欠かもしれません。私の知っている方で、ある不動産登記中心の事務所に勤務したが、その事務所が通常受任する不動産登記業務に留まらず、自ら登記以外の業務を受任し、実務経験を磨いた方もいます。不動産登記中心であっても、このように自ら業務を受任することはできます。そうした際には、組織であることを生かして、その事務所内の複数の司法書士間で業務について検討することもできるでしょう。

 ところで、実務経験を得るためではなく、あくまでも生活の糧を得るために勤務司法書士を選択をする方もいると思われます。特に大都市部においては、前述のとおり、開業することによるリスクも高いため、勤務することに傾くのはごく自然なことかもしれません。

 勤務することで、安定収入が得られるのはもちろんですが、将来の人生設計においても、開業に比して高い実益が見込める面があります。今、私は、個人事業主として開業しているわけですが、個人事業主の場合は、国民年金を納付することとなります。年額20万円弱です。65歳から、年金の支払いが開始される予定ですが、ご存知のように、老齢基礎年金額は、月額換算でせいぜい7万円程度に過ぎず、老後資金としては、全くもって不足しています。その他に、各人によって、プラスαの投資をするかは別論として、開業の場合は、この年金が基本となります。反面、勤務すれば、社会保険に加入でき、厚生年金にも加入することができるため、将来の年金額は増加するというメリットがあります。また、開業した個人事業主に課される税金は少なくなく、さらに、国民健康保険料も驚くほど高額です。一生懸命売上を増加させたが、いざ、確定申告の時になってみると、手元に残る現金は想像以上に少なかったという話は、同じ司法書士からもよく聞きます。

 昨年2月の司法書士法改正に伴い、私のような1人司法書士事務所であっても、法人化することが可能となりました。法人化することで、社会保険にも加入でき、高額な健康保険料は減少するでしょうが、法人化することで課される税金と、それにともなう諸経費等や経営事務面における負担を勘案すると、個人事業主から法人化することで大きなメリットがあるかと問われれば、各人の考え方次第かもしれませんが、私自身はそこまでの差はない気もします。

 したがって、30代の若いうちから勤務し、その事務所で永続的に働くという選択も、将来設計の観点からすると一つの選択ではあります。勤務開始が若ければ若いほど、将来の年金額は増加し、安定した老後を過ごすことができるかもしれません。専門ではないため推測ですが、一般企業のように、長年勤めることで年金額も月額20万円程度に達するかもしれません。もちろん、開業して勤務司法書士以上の収入を得ることも、本人次第で可能ですが、一方でこうした選択もその方の自由だと考えます。

 司法書士の資格は、独立開業に適した資格であることは疑いようがありません。したがって、個人的には、せっかくのこうした資格なのだから、そのチャンスを生かし、チャレンジしてみることをお勧めしますが、各人それぞれの人生設計や価値観があるため、勤務と開業どちらが正解ということでもありません。それぞれ一長一短があるのは確かですので、あとは各人の状況に応じて選択することになるのでしょう。

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  追記

 ブログ村の他の方のブログを見てみました。

 どうも今年はコロナの影響もあって、中央研修が3月で、まさにこれから特別研修が始まるらしい。

 コロナの影響もあるでしょうが、たった7年の差にも関わらず、随分私の時の研修日程とは違うんですね。私の頃は、雪の降る名古屋で特別研修をやりましたが、これから特別研修とはちょっと驚きです。登録自体は、特別研修前でもできるんでしょうか。司法書士は、合格しても、研修があります。費用もかさみます。大変な日々を思い出しました。

 

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