ローカルルール

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 不動産登記においては、地域によって様々な異なる慣行が存在します。

 ほとんどの場合、自分がいる地域内で完結することが多いため、慣れているルールの中で業務を遂行すれば済みますが、権利者又は義務者が他県在住であったりすると、ちょっと勝手が変わってきます。

 有名なところでいうと、「京都方式」又は「大阪方式」と呼ばれる慣行があります。通常、所有権移転登記においては、ほとんどの地域において、一人の司法書士が売主、買主双方を代理して、登記申請を行います。しかし、関西圏においては、売主に司法書士が付き、買主に違う司法書士が付く方法が主流なようです。

 開業3年目位だったでしょうか、買主から売買決済の依頼をされ準備をしているある日、仲介業者から、「売主が司法書士を指定してきた。」と連絡がありました。私は、「ああ、売り側の力関係が強いために、やっぱり売り側主導で売買決済が行われることとなり、その結果、私は降ろされるのだろう。」とまず思いました。実際、諸々の事情により後で司法書士を変更することは、そう頻繁ではありませんが、それでも無きにしもあらずなので、そのパターンかと思ったのです。

 しかし、仲介業者の説明を聞いていると、どうもそうではないらしく、いわゆる「京都方式」と呼ばれるやり方で決済を行うらしいということが、その時点で理解できました。その時の私の心境ですが、「これが噂に聞く京都方式か。」と感じるとともに、正直、「うーん・・やりにくいな。」と感じたのが本当のところです。

 作業面に限っていえば、所有権移転登記の申請手続自体は単純です。その単純な申請をあえて2名でやる必要があるだろうかと感じたのです。1人で行える申請を2人で行うことにより、むしろ、諸々の打ち合わせが発生することも想定され、作業が煩雑になるだけのような気がしました。ただ、そうはいっても、売主も司法書士を選定することはできるわけですから、間違ったことをされているわけでもありません。

 「売主の本人確認は、売り側司法書士が行い、買主の本人確認は私が行う。でも、当日、売主も決済場所に来るんだよな。で、一緒に申請する・・・。」、「そもそも今回は、オンライン申請だけど、その場合は、復代理になるのだろうか・・・もし売主の権利証がなかったら・・。」、「売り側司法書士は、売主から報酬を貰う?」など色々考えました。

 その時は、いわゆる抹消・移転・設定でしたが、結論からいうと、抹消を売り側司法書士が担当し、設定はもちろんですが、移転も私が単独で申請しました。オンラインで連件です。良くは知りませんが、本来の京都方式であれば、移転も共同で申請するか、あるいは復代理などにより申請するらしいのですが、色々と交渉の結果、そのような形で申請することに落ち着きました。

 これ以外にも、岐阜か福井の決済において、その際の担当司法書士は私1人だけでしたが、仲介業者から売主の見積もりが欲しいと言われたことがありました。しかし、その際は、名変もなし、抹消もなし、権利書はあり、したがって、私の感覚では、特段売主に報酬を請求する必要はありませんでした。

 不思議に思って、その仲介業者に確認したところ、「売渡証書作成の見積書が欲しい。」とのことでした。「売渡証書?なんのために?。」と思ったのですが、その地域では、どうやら売渡証書を作成し、その作成費なのか売渡費用という名目なのかは分かりませんが、売主に報酬を請求しているとのことでした。

 売渡証書とは、ご存知のとおり、売買代金の受領事実を記載し、売買代金支払時に所有権が移転する旨の特約の成就を証明し、もって所有権が移転したことを証する書面です。以前は、登記済証を作成する観点からも頻繁に決済において使用されていたようです。私が司法書士になった7年前位にも稀に見られましたが、現在では、私の地域ではほとんど無いように感じます。そもそも今は報告式の登記原因証明情報で十分なこと、また、売買契約とそれに基づく売買代金を支払った事実を証する書面(振込着金記録、領収書等)があれば、あえて印紙添付が必要な売渡証書を作成する意義はほとんどないことを鑑みると、こうした傾向も頷けます。

 その際も、私は売主には請求しない旨を伝え、また売渡証書も作成しませんでした。

 その他珍しい事例でいうと、最近、信用金庫あるいは信用組合でも支店名を登記することができるようになりましたが、名古屋管轄の法務局においては、以前から信用金庫の支店名を登記することができていました。理由は不明です。ちなみに、信用組合はできませんでした。確か、この論点(銀行は〇信用金庫は×労金は〇)は試験知識でもあったので、初めてこの事実を知った時ちょっと驚きでした。しかし、他県の司法書士が、名古屋管轄で登記する際に、普通は、まさか信用金庫で支店が登記できるとは思わないでしょうから、色々と大変だったと思います。

 また、事業用の借換えで金額が大きい場合は、通常、新規で融資する金融機関に、売買決済のように集まることが通常だと思われますが、関西のある金融機関が借換えられる側の金融機関だった際に、関西では旧金融機関に集まることが普通と説明されたこともあります。それが本当なのか、あるいは、単に非協力的だけだったのかは、分かりませんが、いずれにしても、こうした際にも地域によって色々なルールがあるものだと感じました。

 このように、ローカルルールと呼ぶべき慣行が、地域によって存在します。どれが正解というわけでもなく、その地域地域で長年培われてきた慣行です。上記以外にも、私の地域では、決済において、買主側が司法書士を選定しますが、売主側が選定する地域もあるようです(ある業者からそうした説明がありましたが、費用を支払うのは通常買主であることからも、ほんとかどうかは分かりません)。

 おそらく、まだまだ私の知らないルールというか慣行も全国にはあることでしょう。

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