変体仮名

仮名

 現状、法務局で使用できる文字は決まっています。「登記統一文字」といいます。

 「登記統一文字」数は膨大で、実務上の氏名や住所に使用される文字のほとんどは、カバーできます。私が司法書士になる遥か以前の昭和の時代の登記簿を見ると、今とは異なり、いわゆる正字しか登記できなかったようで、現在の登記簿上で見られる多種多様な文字を見ることはできません(それが、試験論点でもあった「斉」と「齊」の相違などの問題にも繋がるのかもしれません。)

 例えば、「はしごだか」も通常の「高」で登記されていたりします。もっとも、登記記録の元となる市町村発行書類である戸籍、住民票等もここ数十年で使用できる文字が変わっていることから、それが登記上の文字制限によるものか、元々の市町村発行書類上の文字に依存したものかは分かりません。いずれにしても、社会が洗練されるに比例して、公共機関で用いられる文字もまた進化しています。

 私は当初からオンラインで申請をしていることは以前のブログでお伝えしましたが、司法書士になった8年前位は、特殊な文字については、法務省の「戸籍統一文字情報」で検索し、まず画像を「外字エディター」に登録してから、それをファイルとしてオンラインに添付していました。つい数年前から、この運用は変わり、現状、申請用総合ソフト上で検索することが可能となっています。

 これまでは、いちいち外字エディターで登録、IMEに登録、コピペといった面倒な手順を踏む必要がありましたが、現在の運用後は、オンライン申請の使い勝手は向上したといえます。

 したがって、実務上、珍しい漢字に遭遇しても、前記法務省の「戸籍統一文字情報」や従前からの「平成16年10月14日民一第二八四二号民事局通達」に基づく「誤字俗字・正字一覧表」にあたりつつ、申請用総合ソフト上で検索することで、99%の文字は実務上の問題が生じることはありません。目当ての文字を容易に判断できます。

 しかし、先日、いわゆる「変体仮名」と呼ばれる文字に遭遇し、困ってしまいました。相続人の一人の文字に変体仮名が使用されていました。

 そもそも、変体仮名とは、戦前に用いられていた仮名のことで、高齢の方の名前などによく用いられています。現在は、新生児に使用することはできないようで、おそらく、次第に消滅することなると思われます。

 この変体仮名の元は、仮名ではなく漢字となります。漢字を崩して書かれたものが変体仮名です。したがって、読み方から判断し、現在のひらがな表記で登記しようとしても、それは間違いであり、登記上も補正となります。

 私の遭遇した変体仮名は、以下の文字でした。試しに、今IMEに登録してあるこの文字をコピペしてみたところ、やはりブラウザ上に表記することはできなかったため、画像にて添付します。

へんたい仮名

 この文字の読みは、「こ」です。おそらく、意味としては、いわゆる「〇〇子」のような意味で名づけられたものでしょう。当時、戦前の話ですが、変体仮名は多く使用されており、この「こ」の元が「古」という漢字であるという意識は特段なく、単純に読み方から、この文字を使用したと思われます。

 仮に「〇〇こ」と登記したとしても、おそらくご本人は不満を持つことはないかもしれません。正直、司法書士が、「この文字は厳密にいう『こ』ではなく、『古』です。」などと説明しても、全く興味がない話に違いありません。しかし、こと司法書士本人にとっては、簡単に済ませることができる話ではなく、正しい文字で登記することが求められます。

 

 おそらく変体仮名の「こ」であろうことは当初から分かりましたが、念のため、この文字を特定するために、何か文字コードのようなものがあれば、それで特定できるかもしれないと思い、市役所の戸籍等の文字を記録する係りに問合せをしたみたのですが、無駄でした。話を伺っていると、そもそも変体仮名字体は、各自治体で用いる形態(つまり画像)が異なっており、その文字画像自体を自治体単位で作成しているらしく、登録時の文字作成担当者も過去の戸籍文字を画像化しているだけなので、元が「古」の変体仮名かどうかという意識もないようでした。

 

 一方、登記統一文字にも変体仮名は登録されており、そこには変体仮名の「こ」もあります。よって、単純にそれを用いればよい話ではあるのですが、市町村発行書類上の「こ」と登記統一文字上の「こ」の形態が若干異なっていたため判断に苦しみました。おそらく一般の方であれば、「これだ!」と判断されると思うのですが、司法書士は、普段から、一見似てるけど少しだけ異なるような漢字に触れる機会が多いため、少しでも違和感があると、心配になってしまいます。明確な文字コードなどがあればまだしも、そうではないため、少し自信がありませんでした。

 さらに、その方は被相続人の配偶者であったのですが、登記申請に添付した他の相続人(被相続人とその方の子供)の現在戸籍上の母(つまりその方)欄上の名前が「平仮名のこ」であったりしたこともあり(市町村自体の記録が間違って記録されているわけですが)、尚更、自信がなくなりました。

 あるウェブサイト上では、両方とも変体仮名の「こ」である旨の説明も見ることもできましたが、文字一つとっても、使用する根拠がないと、何か不安にかられる司法書士の悲しい性もあり、結局、今回の相続登記は、書面で申請することしました。紙ベースの申請書には、住民票上の形態と同様の変体仮名の「こ」を記載しました。

 結局、当初、「おそらくこれだろう」と予想した登記統一文字上の変体仮名の「こ」で登記が完了しましたが、変体仮名については、自治体単位で画像を作成していることもあり、登記統一文字上の使用すべき変体仮名の根拠につき、未だに分かりません。それほど、頻繁に発生する文字ではなく、ごく稀な話ではありますが、ちょっと悩んだ出来事でした。

 

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