開業時の記憶(ミス編)

トラブル

 独立開業し、実務に携わると、色々な場面で悩まれることと思います。ときには、登記申請において、補正通知を受けることもあるでしょう。

 経験を重ねるにつれてミスは少なくなります。私も、現在は、ほとんど補正はありません。しかし、開業当初はそうではありませんでした。色々と悩むことも多く、不慣れなことや経験不足からミスをしたこともあります。

 平成27年に所属司法書士会で、新規登録したばかりの方を対象にフォローアップ研修が実施された際、その方達を対象に、前年の登録者である私や同期登録者が実務においての経験等を紹介する場がありました。

 登録後1年を経た私を含む登録者全員が、どのような業務を経験し、どのような状況で悩み検討したかについて発表し、前年登録者と新規登録者で議論を交わす的な研修だった気がします。

 私が発表した内容は、今思うと、そこで取り上げるほどではなかった事例もありましたが、何も分からない状況で、色々と悩みながら業務にあたった最初の1年間をもとにしたレジュメを作成し発表しました。その当時の内容から、私のように実務経験がないまま開業される方に向けて、少しご紹介していこうと思います。

 

抵当権抹消登記でのミス

 登録をすると、金融機関等に挨拶に行かれる方も多いと思われますが、金融機関から、最初に受任する仕事は、おそらく抵当権抹消登記です。私も、最初の申請は、抵当権抹消登記でした。開業1週間目くらいだったと思います。

 私の感覚では、開業時、意外と多いのが、この抵当権抹消登記申請におけるミスです。私以外にも、何人もの司法書士から、「こういうミスをした」、「ああいうミスをした」という話を聞きました。まだ手続きに不慣れな時点において一番最初に申請する登記であることがやはり大きく影響していると思われます。

 その中でも、特に、解除証書の記載におけるミスが多いように見受けられます。

 試験勉強では、登記の目的や原因については勉強しますが、その原因を示す登記原因証明情報(解除証書等)の内容や形式については、ほとんど触れられることはありません。また委任状の形式なども同様です。

 実務に入ると、全く見たこともないそれら書面を初めて目にすることとなります。そうした書類は、日付などが空欄の場合もあり、自分で加筆する必要もあります。また、その解除証書は金融機関等の作成者によって様々です。実務に慣れてくれば、仮に全く見たことのない解除証書であっても、どうということもなくなりますが、開業時は、悩むことが多々あるかもしれません。

 私も、「絶対にミスをしないぞ」と思い、つたない知識で申請をしましたが、見事に一番最初の申請でミスをしました。以下のような内容です。

ミスの内容 申請後に、登記原因証明情報たる解除証書の記載漏れに気づく
その原因 内容について深く考えることなく、知人からもらった雛形を参考に事務的に作業し、申請に至ったため
教訓 申請書類の記載について、極力根拠づけを行うようになった(当たり前)

解説

 開業時は、ほとんど登記実務の素人からのスタートでしたので、知り合いの先輩司法書士に頼み抵当権抹消登記の雛形的な書類を見せてもらい、それに従って申請をしました。

 ただ、雛形を真似し、申請をしただけでしたが、心配だったので色々と見直していた際に、何かがおかしいこと気づきました。解除証書に不動産を記載していなかったのです。気づいただけまだマシだったかもしれません。

 ちなみに、金融機関等から受領する解除証書には、既に不動産が記載されたものもあれば、不動産が印字されていない解除証書もあります。印字されていなければ、司法書士側で印字する必要があります。形式は様々ですが、以前は、全くの余白(受付番号、日付等すらない)の定型書式を渡されることも多々ありました。最近は金融機関の内部システム化も進んでいるらしく、不動産が記載されていることが多くなってきたような気がします。

 今考えると、笑ってしまうミスですが、当時は、そもそも何故そこに不動産を表示するのかという基本的なことの理解も乏しく、ただ事務的に雛形を真似して申請しただけでした。私は、開業時からほとんどオンライン(特例)で申請していますが、最初の数回のみは、さすがに書面で申請していました。書面の方が補正し易いという事実は知っていたからです。オンラインなら取下げだったでしょう。

 その後、法務局に連絡し、不動産の表示を記載し忘れたことを伝え、不動産を手書きで記載することにより補正し、結果、完了に至りましたが、最初の申請でミスをしたことにより、その後は、簡単な申請であっても、条文や先例等に当たるようになりました。今思うと当たり前なことですが、開業時はその重要性が分かっていませんでした。

 もちろん、全ての事案において、逐一先例等に当たるわけではありませんが、確実に問題ないと判断できる場合以外は、必ずそのようにしています。

 開業されたばかりの方であれば、私のように雛形ありきで申請するだけでなく、解除証書の場合であれば、何故そこに不動産を記入するのか、何故受付番号だけではダメなのか、記載してある文章内容の意味、何故それで抵当権が抹消できるのか等につき、確認されることをお勧めします。

 抵当権抹消以外の登記においても、仮に簡単な登記であっても、不慣れで自信がないのであれば、尚更その根拠づけのためにも、そうした癖をつけておくとよいかと思います。

 私と同じように未経験で抵当権抹消登記の経験がない方がいれば、こちらの私の事務所ブログに、一般の方向けではありますが、抵当権抹消登記の申請方法を記してありますので、参考にしてください。

(根)抵当権設定登記でのミス

 私の最初の担保権設定登記は、根抵当権でした。挨拶に行った金融機関から仕事を頂けたのです。開業1か月を過ぎた位だったでしょうか。

 急ぎの案件だったこともあり、金融機関から実行日の前日夕方に書類を貰い、設定者にも本人確認を済ませ、あとは事務所で書類を整え、次の日の朝に申請するだけでした。

 金融機関から預かった書類は、以下のとおりです。

 ①根抵当権設定契約証書②委任状③代表事項証明書(当時は必要)④印鑑証明書⑤登記済証(権利証は、通常、直接義務者から受領しますが、その時は一旦まず金融機関が預かり、私は、金融機関から受領しました)

ミスの内容 申請前夜に、登記済証が不足していることに気づく。
その原因

金融機関から預かった書類なので、金融機関も確認しているはずだから大丈夫という妄信

また金融機関から書類を預かる際に、あまりに細かくチェックすると嫌がるだろうという遠慮

そもそも、現実の登記済証を見た機会が少なかった

教訓 金融機関から書類を受領する際に、しっかりと確認するようになった(当たり前)

  

解説

 開業し実務に携わるまでは、補助者等で経験のある方以外は、現物の登記済証を見たことがほとんどない方も多いと思われます。私もそうでした。もちろん、開業以前に研修等で数度は見たことがありますが、実務経験に乏しい私は、金融機関から貰った書類なので、まぁ大丈夫だろう位の感覚でした。

 金融機関から書類を貰う際は、金融機関の窓口で、受領書に押印をすることが通常です。本来であれば、経験が少ないからこそ、念入りに書類を確認すべきなのですが、当時は開業したばかりで、金融機関との間の空気感もよく分からず、変な遠慮もあったことから、登記済証で少し不可解な部分もあったのですが、その場は済ましてしまいました。

 所有権の登記済証には、当然ですが、「〇年〇月〇日登記済」という印が押されています。漢数字で受付番号が記載されている長方形の印です。また、それ以外にも日付がない正方形の登記済という印が押されている場合がありますが、これは抵当権抹消登記などの際に、かつて押印されていた印です。

 結論からいうと、金融機関から受領した書面には、正方形の印は幾つか押印されていましたが、所有権を取得した際の長方形の登記済印が見当たりませんでした。金融機関の方であっても登記に詳しくない方もいるというのは、今であれば十分承知していますが、当時は、「金融機関の人間は経験もあり登記にも詳しいはずだ。その人が確認したのだから・・・・。」という勝手な先入観がありました。

 受領後の夜、書類を確認しているとき、登記済証として渡された書類が、やはり何かおかしいと感じ、「所有権の登記済印とは、日付がある長方形の印であったはずなのに、何故正方形の印なのか、これは抵当権を抹消したときの登記済印でないのか」などと色々考え、経験のない私は頭を悩ましておりました。

 最終的にこれは所有権の登記済印ではないと判断するに至りましたが、本来、受領時にもっと確認し、その旨を金融機関に伝えるべきでした。その判断が大幅に遅れてしまったのです。その時点で、既に夜9時過ぎでしたので、金融機関はもちろん設定者にも連絡を取ることはできませんでした。

 しかし、実行日は明日に迫っています。当然、申請が滞ることは許されません。

 次の日の朝、すぐ設定者のところに向かいました。朝8時前だったと思います。設定者は自営業で朝早くから働いている話を聞いていたからです。設定者に権利書がないか確認しましたが、やはり金融機関に渡した書類以外にはないとのことでした。そのため、本人確認情報に基づく登記申請を説明し、再度その場で面談し、あらかじめ用意していた本人確認情報に署名押印を貰い、登記申請することとしました。

 余談ですが、私は、今もそうですが、本人確認情報には、面談者の署名押印をもらっています。登記手続上、本人確認情報は資格者である司法書士の証明が重要であり、面談者の署名押印は要件とされていませんが、登記済証に代わる重要な書類となりますので、後日面談の疑義を生じさせないためにも、あえてそうしています。

 開業当時は、分からないことだらけです。しかし、金融機関や依頼者はそう思ってくれません。ベテランだろうが新人司法書士だろうが一緒です。信頼してくれるからこそ、依頼をしてくれるのです。司法書士としては、そうした信頼に応える必要があり、自分の先入観や遠慮などにより、それを怠るべきではありません。今ならそう言えますが、開業当時は、そこまでの思慮がなかったと、今ブログを書きながら改めて感じています。

 実務経験なくこれから開業される方は、右も左も分からず、金融機関や依頼者とのやりとりすら、全てが初めてのことばかりだと思います。自信がない姿や、業務に不慣れな姿を見せることに消極的になることもあるでしょう。それにより、決断が遅くなり、また誤った判断をすることも想定されます。

 しかし、試験範囲外の知識が要求される実務においては、未経験であれば分からないことが多く発生するのが当たり前です。したがって、私のように、中途半端なことはせずに、しっかりと一つ一つの業務を納得したうえで遂行されると宜しいと思います。

 

 とりあえず、開業時の私のミスを2つほど紹介しました。こんな私でも、今なんとか司法書士としてやっていけています。楽観的に過ぎるかもしれませんが、未経験でも恐れずに開業されればなんとか道は開けるものです。

 また、ミスを肯定するわけではありませんが、ミスをしても、それを取り戻すことができるかどうかも重要です。例えば、当初は書面で申請するなども一つのリスク管理にはなるでしょう。書面で数回申請した後に、自信がついた段階でオンライン(特例)に切り替えるとよいかもしれません。

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