司法書士試験で求められる能力

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 本年度の司法書士筆記試験が本日終わりました。受験された方はお疲れ様でした。

 もう既に、各予備校の解答速報などにより、自分の合格可能性なども把握されていることと思います。また、初級者用講座の方は、来年の試験をいよいよ本格的に意識し始めているかもしれません。いずれにしても、この時期から8月に入るまでは、当時の私もそうでしたが、1年後の試験に向けて、勉強方法について色々と考えることが多い時期ではないでしょうか。

 既に長期講座で勉強されている方は、その講座を中心に勉強されるほかありませんが、あらためて講座を受講する方、あるいは、初めて講座を受講する方などは、これからの1年どのような勉強を経由すべきかにつき、色々と検討を重ねていることと思います。

 以下で、私が考える司法書士試験で必要な能力について述べたいと思います。この投稿は、すでに6月中に書き終えていたものですが、試験直近の時期にどのような内容であれ、試験に関する投稿をすることは、本気で勉強されている方をも迷わすことにも成りかねないと思い、試験が終わった時点で投稿しようと決めていたものです。

 すでに、試験の全体構造について理解されている方にとっては、目新しい内容ではないかもしれませんが、これから本格的に試験の勉強をされる方にとっては、この試験が何故難関試験なのかにつき理解することは、今後の勉強の組み立て方を検討する上でも、とても重要なことです。

 また後日投稿を予定していますが、試験について理解し、合格のためにやるべきことを自分で判断し、その上で勉強を行うことが、司法書士試験においては合格への近道となります。

 各資格試験においては、それぞれ求められる能力が異なりますが、基本は、どの試験であっても、試験範囲の知識があるかどうか、つまり理解力を問われることとなります。

 例えば、宅建であれば、基本テキスト1冊と過去問題集を2~3冊用意し、1,2か月程度勉強すれば、試験範囲の知識を網羅することができます。問題自体も単純ですし、必要とされる理解力も高いものではありません。行政書士試験も、宅建よりは高度な知識を要求されますが、同様に、要求される理解力はそこまで高いものではありません。

 しかし、司法書士試験において必要とされる理解力は、上記2資格とは、比較にならないほど高いレベルのものを要求されます。それだけでも難易度が高い試験ですが、それに加えて、以下の能力も試されることなります。

司法書士試験において求められる能力

  • 理解力
  • 記憶力
  • 処理能力
  • 判断力

 

記憶力

 記憶力とは、文字通り、その知識を記憶としてとどめておく能力です。各論点を理解できても、試験当日に、その論点を忘れてしまっては意味がありません。司法書士試験以外の試験においても、もちろん必要となりますが、司法書士試験においては、よりその傾向が強く現れます。

 司法書士試験の科目は、民法、会社法、不動産登記法、商業登記法、憲法、刑法、供託法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、司法書士法の多岐にわたります。範囲科目が多くある試験は珍しくありません。宅建、行政書士試験なども同様です。

 しかし、宅建においても、民法、宅地建物取引業法、農地法、借地借家法などの複数科目がその試験範囲であることに変わりはありませんが、司法書士試験において1科目毎に求められる知識の量はとにかく膨大で、宅建の比ではありません。宅建、行政書士であれば、求められる知識は、全体で一冊のテキストに記載できる量程度に過ぎませんが、司法書士試験においては、1科目で、宅建や行政書士全体科目の知識量に匹敵する科目もあります。司法書士試験においては、各科目毎に数百ページのテキスト量が基本となります(参考「テキスト量及び必要時間」)

 試験当日には、この全体で数千ページに及ぶテキストに記載された全ての知識について、明確に理解し、かつ、記憶していなければ、合格に至りません。

 ここまで膨大な知識を要求する資格試験は他になく、何度もこのブログで述べてきたことですが、例えば、民法を勉強している間は明確に理解していた各論点についても、次に会社法の勉強を始めると、以前は理解していたその論点さえもあやふやな記憶となることは珍しくありません。その観点から、やはり司法書士試験においては、他の資格試験と比べても、より高いレベルの記憶力が要求されるといってよいでしょう。

 この記憶作業を中途半端な形で済ましてしまうと、合格の可能性は大きく下がります。通常、試験勉強においては、どの試験であっても、過去問などを経由することが一般的です。実際に、司法書士試験においても、過去問を解くことは有効です。しかし、他の試験のように過去問主体での勉強で、広範囲の知識を明確に記憶し続けることは、そもそも可能なのでしょうか。

 以前、私の同期合格者で、過去問主体で合格したと述べた人がいました。受験回数は2回程度との説明があったように記憶しています。過去問主体であっても、複数回受験することにより、理解力や記憶力が徐々に強化され合格することはあり得ると思います。しかし、私は、この同期のように、過去問主体で短期合格可能だとは未だに信じられない部分があるのですが、実際にこうした方がいる以上決して不可能ではないのでしょう。

 したがって、自分が過去問を勉強の中心におき、そのやり方で上記のような明確な記憶を培うことができると判断したのであれば、それを否定はできませんが、司法書士試験の全体構造を理解することなく、単にこれまでの各種試験経験から、過去問主体の勉強を選択したのに過ぎないのであれば、果たして本当にそれで試験当日に明確な記憶を維持できるのかにつき、一度検討されるべきです。

 司法書士試験は、これまで各人が経由してきたであろう、いわゆる高校受験や大学受験とは少し趣きが異なります。それら試験においては、過去問を繰り返し解くことで、問題形式に慣れることにより、ある程度曖昧な知識や記憶であっても、試験自体は乗り切ることもできたかもしれませんが、司法書士試験において、こうした曖昧な理解や記憶で試験に臨むことは、色々な意味でリスキーです(参考「本試験の時間配分」)

 よって、その点を理解したうえで、過去問主体で勉強するのか、あるいは、それ以外の方法が必要なのか、各人自身で判断しなければなりません。過去問主体で記憶を明確に保てるのであればそれを実践すればよいし、過去問では難しいのであれば、ではどうしたら試験当日に明確な記憶をもって試験に臨めるかにつき検討しなければなりません。

 その方法は、各人毎に異なるとは思いますが、私のようにテキスト記載の論点を全て確実に記憶することも一つの方法です。いずれにしても、中途半端な勉強ではなく、自分が「確実にこれをやることで記憶が明確となる」と信ずるに足る方法を取ることが必要です。(参考「全般的な勉強法」)

 


処理能力・判断力

 この2つの能力は、午後の試験に関わる能力です。

 午後の試験は、午前の試験とは異なり、時間との戦いとなります。記述式を余裕をもって解くためには、最低でも1時間半以上の時間が必要となりますが、言い換えれば、午後択一試験については、1時間程度で35問を解答しなければなりません(参考「本試験の時間配分」)

 国家資格試験のうち、解答時間がギリギリとなる試験は、多くはないと思います。宅建の試験時間が短すぎると考える方はいないでしょうし、行政書士試験も十分な試験時間が用意されています。しかし、司法書士試験においては、合格レベルにあっても、午後の部においては、時間ギリギリとなることも珍しくありません。私の場合は、最後の商業登記記述の解答を完了した時点で、確か10分弱程度時間が余りましたが、それでもたった10分弱です。10分では、見直しさえまともにできません。

 そのため、悠長に各問題を精査する暇などなく、迅速に解答していく必要が生じます。このような試験においては、言葉として適切かどうか分かりませんが、処理能力や判断力も結果に大きく左右することとなります。ゆっくり5肢全てを検討していると、記述試験の解答時間が足りなくなってしまうため、適切かつ迅速に問題を処理していかなければなりません。

 なお、私がどのように1時間程度で午後択一試験を解答したかについては、上記リンク「本試験の時間配分」中で述べていますので参考にして頂ければと思います。

 さらに、この2つの能力は、記述試験においても、大きく影響します。司法書士試験の記述試験は、不動産登記及び商業登記双方において、適切な登記申請書を作成できるかどうかを問われる試験です。

 不動産登記においては、事実が列挙され、その事実に基づいた登記を解答用紙に記入することとなりますが、漠然と示された事象から、必要なものを抜き出し、そして適切な順番で登記申請書を作成していきます。その際には、自身の不動産登記法の知識を総動員して解答していくわけですが、単純に知識のみを問う試験ではなく、まさに処理能力も問われる試験となっています。仮に、その処理能力に難があれば、時間を無駄に消費し、商業登記記述の時間が足りなくなってしまいます。

 商業登記においては、不動産登記と同様に、事実が列挙され、それに従い登記申請書を作成していくこととなります。不動産登記に比べると、若干知識の有無を問う側面が強い記述問題ではありますが、それでも処理能力が試される試験であることに変わりありません。

 また、当たり前ですが、物事を処理する上では、その前提として適切な判断力が必要であることは言うまでもありません。

 現実的ではありませんが、もし、午後の部に時間制限が無ければ、司法書士試験の難易度は、大きく下がります。言い換えれば、3時間という短い試験期間内に、択一35問と、記述問題を解き切る必要があるために、司法書士試験が難関試験たり得ているのです。仮に、午後の試験の部が、4時間であったとしても、高い処理能力は必要とされるところ、実際には解答時間は3時間なわけですから、必要とされる処理能力も推して知るべきです。

 試験で求められるこの能力は、まず前提として、十分な学力を培ったうえで、予備校の答練又は模試などを上手く活用することで向上可能です。本試験と同様の時間配分で、それらを解答していくことで、向上するはずです。(参考「記述試験の勉強法」)

 記憶力、処理能力が求められる試験であったとしても、その前提として、高い理解力がなければ合格できないのは当然です。通常の試験であれば、各論点を理解し、その論点を曖昧であってもある程度記憶していれば、それだけで合格に至ることも多いと思われますが、司法書士試験においては、要求される記憶力が通常の試験の比ではなく、さらに午後の部では、その試験構造上、知識以外の能力も試される試験となっているため、そこを理解し、そのために必要な勉強を経由しない限り、いつまで経っても合格することはできません。

 こうした司法書士試験合格に必要なことは、これまで本ブログ上の各投稿で述べてきたとおりですので参考にして頂ければと思います。

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