商業登記の特徴②(住所の表示について)

 先日のブログで述べたとおり、商業登記では、個別性を重視しているため、不動産登記のような連続性が必ずしも要求されません。

 そもそも、商業登記の意義は、法人等の現在の情報を公にすることで、取引の安全性に寄与することですが、であれば、各申請において、もう少し明確な根拠書類を要求してもいいのかなと、個人的には感じています。

 結局のところ、登記所届出印が押印されていれば、真正な登記であると判断するのが商業登記の大前提であるわけで、仮に虚偽記載があったとしても、代表印さえ押印されていれば、申請が受理されてしまうのは、問題だと思います。

 確かに、不動産登記のようにニ者間に直接的に影響することは少なく、虚偽登記があっても会社内部の問題として処理できる側面はあるのかもしれませんが、登記という公示記録が経済活動において大きな判断基準になっていることを鑑みると、真正であることにつき、その確認方法が甘いのは事実です。

 例えば、平取締役の辞任を例にとると、平取締役の辞任届(記名&認印)があり、代表者による登記所届出印が申請書あるいは委任状に押印されていれば、登記は受理されます。

 うろ覚えですが、以前、ある司法書士が、死者か辞任意思がない者の辞任登記(重任登記だったかもしれません)を申請し、多額の遺産がからむ相続に影響したこともあり、損害賠償請求訴訟にも発展したような事案があったと記憶しています。

 私は、辞任登記に限らず、何かしらの役員変更登記においては、必ず、その各取締役の本人確認及び意思確認をしているため、上記のような事案に遭遇することはあり得ませんが、公示の正確性という観点から、都度こうした登記を申請するに際し、色々と考えてしまいます。

 

商業登記における住所の表記

 商業登記においては、法人等の本店、主たる事務所や、代表取締役、理事等の住所が記録されます。

 会社設立登記、本店移転登記、あるいは、代表取締役の就任登記などにおいて、各所在地または住所を記載して申請することとなりますが、住民票や法人の所在場所を証明する公的書類(法人の場合、そもそもそのような証明自体が存在しませんが)は添付書類として要求されていません。

 各申請は、代表者による代表印の押印により、登記の真正が担保されていると判断されるわけです。仮に意図的に虚偽の記載を登記した場合には、刑法上の公正証書原本不実記載罪に該当する場合もありますので、あえて虚偽の住所等を記載する人はいないと思いますが、個人的にいつも注意していることがあります。

 一つは、(代表)取締役等の個人の住所を変更する際に、登記上は添付は要求されていませんが、念のため、住民票を見せてもらっていること。もう一つは、本店等を記録する際に、自治体毎の正確な住所表記を確認していることです。

 商業登記の取締役住所、本店等の所在地については、以下のいずれであっても受理されます。支店においても同様です。

 

  • 〇市〇町1丁目1番1号
  • 〇市〇町1-1-1

  

 もちろん、住居表示未実施の「〇市〇町1番地1」を「〇市〇町1-1」と簡略化して記録することも可能です。住所表記は、各自治体により大きく差があり、「1丁目1番地1」とする自治体もあれば、「1丁目1番1号」とするところもあり、また「1番地1」のところもあれば、「1番地1」とする自治体もあります。

 この辺りは各自治体の裁量次第であるため、どれが正しいというわけではありません。したがって、本店所在地を「1-1-1」のように簡略化して申請することも可能であり、登記もそのとおりに記録されるわけですが、こうした簡略化した表記だと、正確な情報を伝えることができない場合もあります。

  • 〇市〇町1番1号(住居表示実施地域)
  • 〇市〇町1-1

 

  • 〇市〇町1番地の1
  • 〇市〇町1-1

 住居表示実施地域で、「丁目」が一つしかない場合、自治体によっては、あえて一丁目と記載しないことがあります。この場合、「1-1」だと住居表示実施地域なのか地番地域なのかの区別がつきません。

 一般的には、住所や本店が「1-1」と記載されていれば、そこが住居表示実施であろうがなかろうが、実体上の所在地は判明するため、何か実務上の問題が発生することもないでしょうが、情報を正確に公示していないような気もしてしまいます。

 また、特に本店等所在地は、ある意味、商号と同様に、会社等の「顔」であり、ほとんどの会社において、「〇丁目〇番〇号」や「〇番地の〇」などと、簡略化しないで登記されていることを考えると、司法書士としては、こうした簡略化した記載をすることは少し憚られます。したがって、私も、仮に依頼者から「1-1-1」のように所在地の説明があった場合、その自治体における住所表記を確認し、依頼者に説明したうえで、それに合わせた表記に引き直すことがあります。おそらく、この辺りの事務は、司法書士であれば、皆同じではないでしょうか。

不動産登記における本店所在地の表記

 ところで、売買に基づく所有権移転登記などにおいては、その買主の住所、本店所在地が不動産登記簿に記録されることなります。会社等の法人の場合、この本店所在地の表記は、商業登記の記載がそのまま使用されます。

 商業登記上、本店が「1-1-1」であれば、「1-1-1」と記録され、「1丁目1番1号」であれば、不動産登記上も「1丁目1番1号」と記録されます。

 つい先日、商業登記簿上の本店所在地がハイフン表記(「1-1-1」のような)である法人買主の所有権移転登記を申請した際に、そういえば、これまで不動産登記において、住所や本店をこのような簡略表記により登記したことがなかったため、一瞬考えてしまいました。

 ただ、個人であれば住民票を添付するわけですが、法人の場合においては、商業登記記録がそれら公的書類に該当することを鑑みれば、不動産登記上の法人本店所在地は、商業登記上の記載をそのままを記録するしかないと考えるのが妥当です。

 といっても、少し、自信がなかったので、念のため管轄法務局に確認したところ、やはり、商業登記記録の所在地をそのまま記録するとの返答でした。まぁそうなるよなとは思いましたが、不動産登記上でこうした簡略化した住所表記をみることはほとんどないため、ちょっと違和感を感じてしまった出来事でした。

 

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